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伊坂幸太郎さんの小説を読みました。
伊坂さんの作品を読んだのは、
これが初めてだと思います。
最近は、どこの書店に行っても必ずと言っていいほど
文庫本のコーナーの一角に平積みされているので、
その名前は随分と前から知っていましたが、
なかなか手に取る機会がありませんでした。
今回、初めて読んでみて、平積みされている
理由が分かった気がしました。
良くも悪くもストーリーがドラマチック過ぎるので、
ストーリー展開に荒っぽさを感じなくもないですが、
描写力に富んだ文章が読み手をどんどんと
そのフィクションの世界に惹きこんでいきます。
ストーリーのフィクション性を、表現力が
補完している関係。良い関係です。
本作は、予期せず首相暗殺の犯人とされて
しまった男が強大な陰謀に追い詰められていく…
という話(…大雑過ぎ)。サスペンスそのものです。
緊張感溢れるストーリーが青柳雅春と
樋口晴子の二人の視点から語られていきます。
陰謀に巻き込まれてしまった当事者である青柳が
追い詰められて、緊迫していく一方で、
青柳の元恋人・樋口の肩の力が抜けたキャラクターが
随所で、タイミングのよい息抜きになっています。
新鋭のストーリー・テラーの作品。
他の作品も読んでみたくなります。
伊坂幸太郎[2007]『ゴールデンスランバー』新潮社、新潮文庫。
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東野圭吾さんの小説を読みました。
少し前まで、多くの書店で大々的に
平積みされていた作品です。
東野圭吾さん得意のサスペンスですが、
本作はホラーの要素が入っているところが
特徴だと思います。
背筋がぞわっとする小説です。
もちろん東野さんらしいトリッキーな
仕掛けも施されています。
あらすじ。
頭に怪我を負わせれたことにより
記憶の一部を失った青年。
失った記憶の一部でああり、自らが引き起こし、
人を死なせてしまった交通事故の記憶を
取り戻そうと事故の真相を調べだすと、
思わぬ事実が浮かび上がってくる…。
時間を忘れて、読んでしまえる一冊だと思います。
東野圭吾[2011]『ダイイング・アイ』光文社、光文社文庫。
第144回芥川賞、もう一つの受賞作…
むしろ、こっちの方が本命だった作品です。
朝吹真理子さんの『きことわ』を読みました。
選考委員の圧倒的多数が支持した作品だそうです。
巧みな技量をベースに五感にうったえる作品で、
現代アートを感じさせるような作品だと思いました。
夢と現実、現在と過去を行ったり来たりする作品。
優れた文学作品は、その世界を読み手に
立体的に体験させることができます。
さらに、本作は時間軸を取り込むことで
4次元的な視点を組み込むことに
成功していると思いました。
個々の文章はとっても、とっても作り込まれています。
ただ、個人的にはあまり好きではない類の
作品だなぁと思いました。失敬。
優れた作品だとは思うのですけど。
それぞれの文章からも作者のこだわりが感じられる
ことなど、優れているとは思いますが…
それが逆にあざとく感じられてしまいました
また、どうしても退屈な感が否めませんでした。
本作の好き嫌いというよりは、この類の作品が
あまり得意ではないということだと思います。
良し悪しより、好みの問題ということ。
朝吹真理子[2011]「ときこわ」『文藝春秋』文藝春秋、pp.390-443.
西村賢太さんの作品を読みました。
第144回芥川賞受賞作です。
西村さんの他の作品(『暗渠の宿』新潮文庫)を読んで、
「この作家は凄いッ」と思いました。ハマりました。
『暗渠の宿』については、また改めて書きます。
この作家さんが良さは、文章が力強さ。
“凄み”という言葉がしっくりくるような
命を懸けたような力強さを発散させています。
最近では、めっきり見かけなくなった
私小説というのも、特徴だと思います。
社会の底辺層で生きる男の姿、
西村さん自身をそのまま投影した姿を
作品とする作家さんです。
まだ数多くは読んでいませんが、
これまで読んだ作品では全て共通して、
汗臭く、酒臭い男の体臭がむせるほどに、
時として嫌悪を感じるほどに漂ってきます。
一度、読んだ後では本屋さんに西村さんの
本が平積みされているのを見ただけで、
汗とお酒の臭いがするような気分に…
それくらい強い作品です(苦笑)。
芥川賞受賞作となった本作も、
他作品と同様、西村賢太の私小説に
どっぷりとつかった作品となっています。
学もなく、取りえもなく日雇いの仕事で、
その日暮をする19歳の青年が過ごした
一時期を描いています。
相変わらず、というか19歳にしてすでに、
嫌悪感を憶えるほどに男臭いです。
しかし、やはり19歳という年齢のせいか、
30歳前後の頃を描いた『暗渠の宿』などとは異なり、
かすかに爽やかな風を感じることがあります。
若さって素晴らしいって思いました。
ま、そのことは本作のテーマとは全く異なりますけど。
その辺が新人賞の割には保守的な傾向が強い…
(と自分は思っていいます)芥川賞の受賞につながった
のではないかな、などと思いました。
西村賢太[2011]「苦役列車」『文藝春秋』新潮社、pp444-493。
一昨年、昨年に話題となった『1Q84』を読みました。
蛇足もはなはだしいですが、
村上春樹さんの書き下ろし長編小説です。
青豆という特殊な能力と職業を持つ女性と、
その青豆と同年代の青年、予備校で非常勤講師をしながら、
漠然と小説家を夢見ている普通の人・天吾を
中心として、物語は語られていきます。
二人の視点を交互に交えながら、
「1Q84」の世界が描かれている小説です。
“BOOK 3”からはさらにもう一人からの
視点が加味されます。
「1Q84」という奇妙なタイトルですが、
その世界(…時代!?)は、小説のかなり早い段階で、
読者にもその大枠を把握できるように、
明らかにされています。
そして、小説が進むにつれて深化していきます…。
一言で感想をいうと、
村上春樹ワールドを堪能できる作品だと思います。
同氏の小説は、時として難解な(感覚的過ぎる…)
こともありますが、本作については
常識的な範囲に収まっていると思いました。
宗教や大麻など、比較的にアドホックなテーマを
取り込んでいるところに意外な印象も受けましたが、
非現実的な、まるで現実のような舞台で
登場人物の心の変遷を絶妙に描いています。
同氏のらしさ、真骨頂だと思います。
そして、印象派の画家を思わせるような、
カラフルでスパイシーな、どこかぶっ飛んだ
世界が紐解かれていきます。
いや、むしろ絡まっていくのかも。
とりあえず、“ノルウェイ”よりはぶっ飛んでいて、
“クロニクル”よりはシラフな小説に
仕上がっていると思います。
「うん、やっぱこの作家さんの感じは好きだなぁ。」
と自分なりに再認識しました。
ただ、村上春樹さんがどうしてこんなに、
社会現象になるほどに人気があるのか…
改めて不思議に思いました。
好き人は好きというか、
一部の熱狂的な愛好家に支持されるタイプ…
好き嫌いがはっきりと分かれる作風の
小説家だと思うのですけど。
稀有な作家。
熱狂的な愛好家はいても流行とはなりづらい…
そんな作風だと思うのですけど。不思議に感じます。
この作品を読みながら、楽しみながらも、
そんな違和感を改めて感じました。
村上春樹[2009]『1Q84 BOOK1』新潮社、
村上春樹[2009]『1Q84 BOOK2』新潮社、
村上春樹[2010]『1Q84 BOOK3』新潮社。
坂本司さんの作品を読みました。
初めて読む坂本司さんの作品で、
読み始めてみたら普段、ほとんど読むことのない
ショートショートでした。
友達から、「軽い気持ちで読んでね」
というお薦めとも言えないようなお薦めのもと、
借りて読み始めましたが…
その通り、軽い気持ちで読んだのが
功を奏したみたいです(苦笑)。
友達…正しいッ(笑)
10分前後で読める20~30編ほどの
ショートショートが収められています。
一つ一つが独立していて、
共通のテーマみたいなものも特にないです。
ただ、多くの作品がどことなく不気味です。
ホラーというと大袈裟すぎますけど、
ちょっとした狂気を含んでいます。
背中の筋をすーっと一撫でされるような
ショート・ストーリーが大半です。
ちょっとした合間に読むのに最適です。
そして、ちょっと涼しい気持ちを
味わえると思います…
ただし、“軽い気持ち”で読んでください。
坂本司[2011]『短劇』光文社、光文社文庫。
安部公房さんの作品を読みました。
文学史に残る著名な作品なので、
どういう風に感想を書けばいいのか…
難しいですが(苦笑)。
まずは「まさしく文学的だなぁ」って、
そんな底の浅い感じの印象を受けました。
でも、間違いなく文学的な薫りを
濃厚に漂わす作品だと思います。
まぁ近代日本文学史にその名を残す
作品ですから、何をいわんや…ですけど。
意に反して、砂に囲まれた家に監禁されてしまった
男の心の変遷を描いていくことが、
この小説の要点だと思います。
私小説ではないですが、その要素を
多分に含んでいる作品だと思います。
男の理不尽な思いや焦燥、怒り、
希望、諦観めいた気持ち、
気持ちに反して、順応してしまう性だったり…
主人公である男の心の移り変わりが、
冷酷なほどに見事に描かれています。
非日常的な状況に追い込まれた
男の心の変遷ですが、不思議と共感を
覚える瞬間があったりします。
ただし、ネガティブな共感ですけど。
心の一部をざっくりと切り取られる
ような気分を数度、味わいました。
難を言えば、情景が浮かびづらいことです。
非日常的な空間が舞台なのですが、
その舞台の情景が今イチ、浮かびづらいです。
個々の文章の表現力は十分なのですが、
全体としての情景がぼやけるのです。
小説の舞台設定にリアリティが乏しいのに、
それを十分に補足するほどの必要な描写が
なされていない気がしました。
ずーっと目覚めの悪い夢の中に
いるような気分にさせられるのです。
なので、読んでいて疲れます。
ただ、それがこの小説の禍々しさを
惹き立てているとも評価できるのですが。
そんな「文学」を感じた作品でした。
安部公房[1956]『砂の女』新潮社、新潮文庫。