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ぼそっと。映画の話、本の話。
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大沢在昌さんの「狩人」シリーズの
最新刊を読みました。

『北の狩人』『砂の狩人』、そして本作
『黒の狩人』へと続く「狩人」シリーズですが、
その特徴として、シリーズに共通して出てくる
キャラクターが脇役的な存在であった、
ということがあります。

新宿署の刑事・佐江がそのシリーズで共通する
キャラクターなのですが、先の2作では特徴的な
キャラクターとしては描かれているものの、
準主役程度の脇役としての存在していました。


しかし、本作ではその佐江が主人公の一人として、
謎の多い中国人協力者と外務省の美人職員とともに、
物語を通して活躍します…というか、
佐江は様々な思惑の中、振り回され続けます。

主役になっても、佐江の貧乏くじをひかされる
展開というのは変わらないみたいです(笑)。


本作は、中国人を被害者とした連続殺人事件が
発端となります。

職業や出生の異なる被害者達だったが、
共通して謎の刺青を彫られていた。

佐江は、上層部からあてがわれた中国人の
捜査補助員とともに捜査にあたることになる。

謎の多い中国人の捜査補助員、さらには、
外務省の職員である由紀が加わり、
佐江達は事件の真相に迫っていく。


次々と話が展開していき、どんどんと読み進める
ことができるのは、大沢さんの作品の特徴です。

息をつかせない展開のなか、別々に進行していた
話が一つの線につながっていきます。

途中、登場する中国人の名前と関係性が
こんがらかってしまい(苦笑)、誰が誰やら
分からなくなってしまったりもしましたが…

「狩人」シリーズの中では、最も面白い
作品だと思いました。


ただ、帯にあった“「新宿鮫」と双璧をなす"
というフレーズには同意できません。

「新宿鮫」には及ばないかと。



大沢在昌[2011]『黒の狩人(上)』新潮社、新潮文庫。
大沢在昌[2011]『黒の狩人(下)』新潮社、新潮文庫。
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少し前に芥川賞を受賞した西村賢太さんの
作品を読みました。再読です。

「けがれなき酒のへど」と、標題でもある
「暗渠の宿」の2編を収めた文庫本です。


芥川賞受賞の報を耳にし、西村さんの作品を
どれか読んでみたいなぁと思っていたところ、
“話題の一冊”として本屋に平積みされていたので、
手に取ったのがこの文庫本でした。

受賞作より、さきに読んだわけです。


瞬く間に、この作家のファンになってしまいました。

私小説というほとんど読まないジャンルですが、
全てをさらけ出して読み手に迫ってくる文章に
圧倒されて、惹き込まれてしまいました。

西村さんの投影である主人公は、
かなり性格が捻じ曲がってます。

正直、実際に身近にいたら仲良くはなれない、
むしろ、なりたくない部類の人間だと思います。

ただ、ある意味自分に正直で、器量が小さく、
不器用な性格はキャラクターとしてどこか
憎みきれないところがあります。

それに、彼の抱える他人に対する不信感や
常に抱えている心の鬱屈は、自分も確実に
その一片を持っているように思い、
「さすがにそこまでは…ないな」と思いつつも、
何がしかの共感を抱いてしまいます。


人の性(さが)をついてくる私小説です。

西村賢太って凄いッ!!



西村賢太[2006]『暗渠の宿』新潮社、新潮文庫。

奥田英朗さんの小説を読みました。

奥田さんの小説を読むのは、これが初めてです。


ジャンルで言えば、クライム小説(犯罪小説)…

そういうジャンルが確立されいるのか
知りませんけど。あしからず。

耳に齧ったところによると、
海外ではけっこう多いみたいです。

ノワールとも呼称されるジャンルです。

ノワールと言えば、『不夜城』で有名な
馳星周さんが日本では代表的な作家さんです。

(ノワールって暗黒小説と訳されたりするので、
微妙にジャンルが違うのかも知れません…。)

最近、増えてきているとは言え、
やっぱ日本では道徳観からか、犯罪者を
主人公に据えるのは主流になりにくのかな…

と思ったりします、
個人的には好きなジャンルなのですが。


もとい、『最悪』は普通の人達が犯罪に
転がり落ちていく…という小説です。


中小企業の社長、OL、その日暮しのチンピラ、

とそれぞれ生活環境が全く違う3人の
人生が思ってもみなかった状況で交錯し、
「最悪」の運命に弄ばれるように、
犯罪に巻き込まれていきます。


それぞれに止むに止まれぬ事情があって、
それぞれに必死に抗おうとしてもかなわず…

「最悪」の場所に墜ちていく。


犯罪をしてくてする人ってなかなかいないと思います。
それでも、犯罪は起こってしまう…犯してしまう。

その理由や背景をつきつめようとする、
時に“人間の性”に焦点をあてる、

クライム小説の面白さを分かりやす
示している作品だと思います。


正直、ストーリー・テリングの上手さで
カバーしてるものの、随所で垣間見える
ストーリーの荒っぽさは否めないです。

でも、一気に読ませる力のある作品です。


ぶ厚めの文庫本ですが、あっという間に
ページが進む作品でした。



奥田英朗[2002]『最悪』講談社、講談社文庫。

ケン・フォレットさんの代表作、
『大聖堂』を再読しました。

高校生の頃に読んで、感銘を受けた作品です。
貪るように読んだ記憶があります。

「面白かったなぁ」という記憶とともに、
ずーっと本棚に並んだままになっていたのですが、
久しぶりに無性に読みたくなり、再読しました。

そして、また貪るように読みました。


12世紀のイングランド(イギリス)を舞台にした作品、
タイトル通り大聖堂をめぐる作品です。

美しく雄大な大聖堂の建立に情熱を傾ける
建築技師や修道僧、そして、その家族たちの
生き様を壮大に描いている作品です。


「大聖堂」と聞いても多くの日本人にとっては、
馴染みの薄いものだと思います。

ですが読み始めれば、すぐにこの小説の
世界に引き込まれることだと思います。

そして、胸が熱くなり、いっぱいになる
小説だと思います。


少なくとも高校生の頃の自分と、
31歳の自分はそうでした。


「世代を超えて楽しめる小説」
ってことみたいです(笑)



ケン・フォレット、矢野浩三郎訳[1991]『大聖堂(上)』新潮社、新潮文庫、
ケン・フォレット、矢野浩三郎訳[1991]『大聖堂(中)』新潮社、新潮文庫、
ケン・フォレット、矢野浩三郎訳[1991]『大聖堂(下)』ソフトバンククリエイティブ、ソフトバンク文庫。

有川浩さんの小説を読みました。

たぶん有川さんの小説を読んだのは、
初めてかなぁと思います。


阪急電車にたまたま乗り合わせた人達の
それぞれの人生をリレー形式で綴っていく小説です。

あまり読んだことのないタイプの小説でした。

恋愛の要素はあるけど、ラブストーリーではないし、
日常を切り取っているけど、けっして純文学という
趣のある小説ではないです。


阪急電車に偶然乗り合わせたアカの他人達同士、
学生だったり、OLだったり、主婦だったり。

電車を介して、ほんの少し交差する
彼ら彼女らの人生のほんの一場面…

一場面だけど各自それぞれにとっては、
人生の転機のきっかけであったりもする
出来事を切り取っていく小説です。


人にはそれぞれに悩みがあって、幸せがあって、
それぞれの人生があるということを見事に
表現した小説だと思います。


心がほんわかする小説です。



有川浩[2010]『阪急電車』幻冬舎、幻冬舎文庫。

『ゴールデンスランバー』が面白かったので、
伊坂幸太郎さんの小説を新たに読みました。

前回に読んだ『ゴールデンスランバー』は、
長編小説でしたが、今回の『死神の精度』は
表題作をはじめとした6編からなる短編集です。


長編作品をじっくりと読むのが好きなので、
あまり短編集って選好しないのですが…

知人が貸してくれた幾つかの本の中に、
たまたま伊坂さんの小説があったので、
手にとってみました。


タイトルにもある死神が各編での、
共通の主人公となる短編集です。

ミュージックが好きで、渋滞を嫌悪し、
サラリーマンのように仕事を抱える死神…

というちょっと風変わりな主人公です。

死神は、一週間前に控えた人の前に姿を表します。
そして、その人の生活状況を調査し、
一週間後に迫った「死」を「可」とするか、
「見送り」とするかの報告を行ないます。

多くの場合は「可」となるらしく、
八日目に「死」が調査対象者に訪れます。



この死神のキャラクター設定だけでも、
面白いなぁと思える作品でした。

もちろん“仕掛け”が上手ければ、その分、
その仕掛けをどのように活かしていくかが
難しくなると思いますが…

やっぱり伊坂さんって技量のある作家さんだなぁ、
と思わせる作品の数々でした。


目前に死に控えて、そしてその多くの場合、
調査対象者達はその事実を知らないのですが、
それぞれの人生がその最後かもしれない一週間に
凝縮されているようです。

死神はそれぞれの一週間を調査対象者の隣や
間近で眺めて、「可」か「見送り」の報告をします。

死神は事務的に報告を行なおうとする一方で、
死を目前にした人間の言葉や感情を、
彼なりに咀嚼しようとします。


死神や死をテーマに扱っているにもかかわらず、
どことなくファンタジーを感じさせる作品です。



伊坂幸太郎[2008]『死神の精度』文藝春秋、文春文庫。

宮部みゆきさんの小説を読みました。

1991年に発表された小説で、
宮部みゆきさんが作家デビューしてから
まだ間もない初期の頃の作品です。

宮部みゆきさんの代表作の一つとしても、
よく挙げられる作品です。

そんな作品なので、宮部さんの作品を
読み漁っていた高校生から大学生の頃に
絶対、読んでいるはずなのに…

ストーリーが全く思い出せず。

まぁ10年も経っているからしょうがないのですが、
再読しようと本棚を探してみても見つからない…

「あれ??」「読んでないのかなぁ」と
記憶を探りつつ、疑いつつ…

結局、買い直しました。


そして、読み進めるうちに、
“やっぱり読んだことある”と(苦笑)。


再び読んでみて思いましたが、
この作品は面白いと改めて思いました。

宮部さんの作品の一つのジャンルとなる、
超能力を取り扱った小説です。

後の作品となりますが、
『蒲生邸事件』や『クロスファイア』
などが宮部小説の“超能力モノ”です。


雑誌記者の高坂昭吾が嵐の夜に、
道端で立ち往生していた少年・稲村慎司を拾う。

嵐の中で出会った二人は、ある事件に
巻き込まれてしまう。

その事件のいきがかりに慎司は、
自分が特殊な能力を持っていることを
高坂に告白するのだった。

慎司の超能力については半信半疑ながらも、
高坂は慎司の心の苦悩を気にかけていた。

そして、二人はさらなる事件に、
巻き込まれていくことになる。


“超能力”というと、突飛な内容に
なってしまうように思ってしまいますが、
この小説については全くの杞憂です。

むしろ、その超能力がこの小説の
魅力を大いに惹き立てています。

どれを読んでも魅力を感じてしまう
宮部さん小説ですが、特に初期の頃の
作品には魅力的な作品が数多いです。



宮部みゆき[1991]『龍は眠る』新潮社、新潮文庫。
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